福島第一原発事故以後、子どもたちを一時的に放射能汚染が少ない地域に受け入れる「保養」が、さまざまな団体で取り組まれている。放射能安全神話が流布される中、放射能汚染に不安を抱えてそこに暮らす人たちの選択肢として、「保養」は9年経った今もニーズが高い。
日本での保養の実態
原発事故以降、数多くの保養プログラムが民間団体の手により実施されてきた。「リフレッシュサポート」と「311受入全国協議会保養促進ワーキンググループ」が全国の保養団体234団体を対象にアンケートを実施したところ、以下の実態が明らかになった1。
- 保養団体の69%が任意団体。収入の71%が寄付金で最も多くを占めていた。寄付金収入は年々減少の傾向にある。
- 1プログラムあたりの平均参加者数は27.2人であり、平均滞在日数は5.3日であった。107団体で9,000人強を受け入れていた。受け入れにかかる費用は直接費・間接費含めて、1人1滞在あたり平均70,391円。
- 保養団体の抱える主要な課題として、最も多かったのが、「活動のための資金が不足している」、次いで「スタッフの人数が不足している」。
「原発事故・子ども被災者支援法」の基本方針に盛り込まれてはじまった「ふくしま っ子自然体験・交流活動支援事業」は、2013 年度の事業予算は 3 億 3 千万円であったが、2018 年度には 1 億 2 千万円に縮小され、2019 年度には『チャレンジ!子どもがふみだす体験活動応援事業』に統合された。民間の保養団体が助成を受けることは非常に困難である。
チェルノブイリとの比較
チェルノブイリ原発事故後ベラルーシ、ウクライナの汚染地域では、チェルノブイリ法により、18歳までの子どもたちが国家予算で3週間の保養に参加する権利を有しており、2010年、ベラルーシでは対象人数 15万人中 10万人が保養に参加、ウクライナでも対象15万人中5万人が3週間の保養に参加していたと言われている。
国家政策としての位置づけの必要性
国・県により帰還促進が進められている中、不安を抱えたまま帰還せざるを得ない人たちも多い。FoE Japanには、「保養へ行きたい」という問い合わせが数多く寄せられている。また、新たに子どもが生まれたお母さん、避難できなかったけれど保養に参加してきた方々からも、保養の継続の強い要望がよせられている。一方、各地の保養団体は経済的にも人的にも疲弊してきており、縮小や中止も余儀なくされている。被ばく低減の具体的な施策の一つとして、保養を国の政策に位置付ける必要が高まっている。
- リフレッシュサポート、311受入全国協議会保養促進ワーキンググループ「原発事故に伴う保養実態調査 調査結果報告書」(2016年7月)。アンケート実施期間は2014年11 月1日から2015年10月31日まで。