福島県では事故当時18歳以下の人たちに対して定期的に甲状腺検査を行っているが、このうち甲状腺がんまたは疑いと診断された人の数は237人、うち手術してがんと確定したのは186人にのぼる(2020年2月13日までの公表資料)。このほかに、福島県立医科大学では少なくとも11人の甲状腺がんの子どもたちが手術・治療を受けている。これは、経過観察中に甲状腺がんと診断された場合、県民健康調査の合計数には含まれず「集計外」とされているからだ。また、県民健康調査の甲状腺検査を受けた人で、甲状腺のしこり等(結節性病変)がある患者向けのサポート事業の対象者は257人(2018年12月時点)と発表されているが、その詳細はよくわかっていない。
いずれにせよ、実数の把握が困難となっており、県民健康調査委員会で発表されている数から漏れている患者が少なからずいる。手術所見についても断片的にしか明らかにされていないが、リンパ節転移、甲状腺外浸潤が生じている患者が多く、遠隔転移している患者もいる。
男性:女性は1:1〜2で、通常の甲状腺がん(男:女=1:7〜8)と比較したとき、男性の割合が高くなっている1。
甲状腺がんの人たちの数(福島県内、事故当時18歳以下)
対象者数、 受診者数 | 甲状腺がん 又は疑い(A) | 手術後確定(B) | (A)の男:女 注1) | (A)で基本調査に回答した人のうち 外部被ばく1mSv以上の割合 注2) | |
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1巡目検査 (2011〜 2013年) | 対象:367,649人 受診者300,473人 (受診率81.7%) | 116 | 101 | 1:2.0 | 29% (65人中19人) |
2巡目 (2014〜2015年) | 対象:381,256人 受診者270,516人 (受診率71.0%) | 71 | 52 | 1:1.2 | 58% (36人中21人) |
3巡目 (2016〜2017) | 対象:336,669人 受診者:217,904 (受診率64.7%) | 30 | 24 | 1:1.5 | 36% (11人中4人) |
4巡目 (2018〜) | 対象:294,183人 受診者:136,942 人 (受診率:46.5%) | 16 | 8 | 1:1.0 | 82% (11人中9人) |
25歳節目検診 | 対象:44,542人 受診者:4,277人 (受診率9.6%) | 4 | 1 | 1:1.0 | – |
合計 | 237 | 186 |
出典)2020年2月13日までの福島県発表資料をもとに作成
注1)野口病院、隈病院、伊藤病院での若年性甲状腺がんにおける男女比は1:7.8
注2)基本調査全体では、1mSv以上の割合は37.8% n=465,999)
「数十倍のオーダーで多い」
福島県県民健康調査検討委員会では、一巡目の結果について「わが国の地域がん登録 で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い」とする一方で、「事故の影響は考えづらい」とする中間まとめを行った。二巡目に関しては、以下の見解を示した。
- 二巡目における甲状腺がん発見率は、一巡目よりもやや低いものの、地域がん登録 で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推計される有病率に比べて、依然 として数十倍高い。
- 地域別の悪性ないし悪性疑いの発見率について、性、年齢等を考慮せずに単純に比 較した場合に、避難区域等 13 市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に高かった。
- 原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)で公表された推計甲状腺 吸収線量を用いた結果、線量と甲状腺がん発見率に明らかな関連はみられなかった。
これに対して、データ分析手法に詳しい慶應義塾大学商学部教授の濱岡豊教授は、「まとめでは、『性、年齢等を考慮せずに単純に比較した場合、避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に高かった』としている。しかし、性別については、地域間で差は無いため、調整しても結果は変わらない。また、年齢については、避難区域等13市町村が検査時期は最も早いため、検査時年齢は若くなる。年齢にしたがって甲状腺の発見率が高くなるため、年齢について調整を行えば、より地域差は大きくなるだろう」とし、地域間分析における差を、「性、年齢等の違いによるもの」とすることを誤りとしている。また、UNSCEAR線量を用いた分析手法についても、「分析対象を分割することにより、検定力の低下を生じさせている」として、統計手法上の問題を指摘している。
リンパ節転移、甲状腺外浸潤、再発も
当初は、甲状腺がんが多く見出されているのは、「スクリーニング効果」2によるものとされてきた。しかし、一巡目の数十倍の多発は「スクリーニング効果」だけでは説明ができない上、わずか2年後に実施された二巡目検査で71人もの甲状腺がん・疑いが見出されたことも説明がつかない。
甲状腺がんが多く見出されている理由として、一部の専門家たちは「過剰診断論」を唱えている。「過剰診断」とは「生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断」をさす。
しかし、実際には、福島県立医大は、微小ながんやリスクが低いがんは経過観察にまわしている。執刀にあたった福島県立医科大学の鈴木眞一教授は、180例の甲状腺がんについて、72%がリンパ節転移、47%でまわりの組織への広がり(浸潤)が見られたとして、いずれも手術が必要な症例であったとする3。なお、鈴木教授によれば、6%で再発が生じ、再手術している。
福島県外では進行した段階でみつかる例が…
「3・11甲状腺がん子ども基金」(代表:崎山比早子氏)は、2016年12月から、東日本の1都15県に在住し、事故当時18歳以下で事故後甲状腺がんを発症した患者たちへの療養費給付事業を始めた。2019年12月までに160人(福島県内104人、県外56人)に療養費を給付した。県外では大規模な甲状腺検査は行われていないため、がんが進行した段階でみつかっている例が多いという。同基金の崎山代表は、「一部の委員から学校での検査をやめるべきという意見が出されたが、当事者はむしろ検査の拡大・充実を望んでいる。検診は早期発見・早期治療が成功しているとみるべきだ」とコメントしている。
- 野口病院、伊藤病院、隈病院における若年性の甲状腺がんの性差は、男性:女性が1:7.7。2020 年 3 月 2 日福島県立医大による国際シンポジウム、神奈川県予防医学協会吉田明氏発表資料より。
- 一斉に検査を行うことにより、潜在的に持っている病気が発見されるため、自覚症状があってから診察をうけて病気と診断されるよりも多く病気がみつかる効果。
- 2020年2月3日開催「第2回 放射線医学県民健康管理センター国際シンポジウム」