大手電力に契約が戻る事例が目立った2019年度
電力システム改革、電力小売全面自由化を機に、全国に多数の新電力会社が発足し、電力小売をめぐる状況が変化している。自治体による電力調達も、その中で重要な役割を持つ。FoE Japanが事務局を務めるパワーシフト・キャンペーンは、朝日新聞社、一橋大学自然資源経済論プロジェクト、環境エネルギー政策研究所とともに、2019年6月から7月にかけ、「自治体の電力調達の状況に関する調査」を実施し、134の自治体から回答を得た。
47都道府県と20政令指定都市の、本庁舎の電力契約をみると、大手電力が一般競争入札で落札する事例が約半数と目立っている。右の地図で、オレンジ色はいったん新電力と契約したものの大手に戻った自治体(36自治体)、黄色はずっと大手電力と契約している自治体(18自治体)を示すが、両方を合わせると54自治体で、かなりの割合で本庁舎の契約が大手電力となったことがわかった。大手電力は、かつて総括原価方式のもとで電力消費者が負担して建設した古い大規模な電源を多く保有している。そのため、新電力には追従できない値引きができるという背景も考えられる。
総合評価落札方式による環境配慮調達を
環境配慮契約法(2007年)により、自治体が電気などの契約をする際に環境性能に配慮することが努力義務とされている。調査回答では電力の環境配慮調達は都道府県で53%、政令指定都市で55%と低い割合にとどまった。環境配慮契約法の基本方針(電力調達)では、現状では裾切り方式(CO2排出係数を主な基準として点数付けし、70点以上で入札に参加できる)が例示されており、再生可能エネルギーや地域の新電力との契約促進にはつながっていない。またFIT電気(固定価格買取制度により交付金を受けた再エネ設備から調達した電気)のCO2排出係数はゼロではない。そのためFIT電気の調達を重視する新電力は、CO2ゼロ価値の証書などを購入しない限りCO2排出係数が高く、入札に参加しにくいという課題もある。
一般競争入札では最終的に価格のみの判断となるため、再エネ割合なども含め総合的な評価で落札者を決めることが望まれる。東京都庁(第一本庁舎)では、2019年度より一般競争入札の総合評価落札方式を導入し、再生可能エネルギー100%の供給をおこなう新電力と契約している。静岡市では、総合評価落札方式により地元新電力と契約している。
自治体新電力の可能性
一方、自治体が出資して新電力を設立する動きも全国に広がっている。例えば山形県や埼玉県所沢市など、自治体新電力をすでに設立している自治体は、ほとんどの場合本庁舎の電力を自治体新電力から随意契約で調達している。地方自治法により、自治体の調達はよいものをより安価に調達するために、一般競争入札が基本とされているが、入札に適さない場合には随意契約を適用することもできる。多くの場合、自治体の計画のなかに再生可能エネルギーの推進や地元電源の調達などを位置づけるなどして理由づけをしている。自治体新電力の設立の理由としては、地域経済循環や地域活性化、地域の再生可能エネルギーの活用などが挙げられている。ただし、自治体電力を設立している自治体であっても、再生可能エネルギーや地元産電源の調達には課題を抱えている場合も多い。
地域に資する再エネ調達を自治体でも
調査を通じ、下記の点を提言としてまとめた。今後パワ―シフト・キャンペーンでも、各地自治体への事例共有などを行い、地域に資する再エネ調達を後押ししていく予定である。
- 自治体の電力調達は、地域の計画や経済のあり方と密接に関わっているため、価格のみを重視する調達ではなく、環境配慮や再生可能エネルギー、地域の新電力会社などを考慮した、総合的な観点からの調達が望まれる。自治体新電力の設立も有効な手段であり広がりを期待する。
- 自治体は、持続可能な地域づくりと地域活性化のための長期的なビジョンを作成し、地域社会や日本社会全体で共有していくことが必要である。
- 大手電力による一般競争入札での契約「取戻し」が目立つことの背景にある新電力との間の格差(電源保有、顧客情報など)の可視化と是正に向けた対応が必要である。
- 現在の環境配慮契約法の基本方針を、総合的な観点からの落札者決定を促すように改訂し、国だけでなく都道府県や基礎自治体にも義務化していく必要がある。
「自治体の電力調達の状況に関する調査報告書-環境配慮・地域経済循環のために―」
報告書ダウンロード:http://power-shift.org/jichitai_report2019/