原発は気候変動対策?
昨今、気候変動に起因する異常気象が増加し、日本でも集中豪雨や猛暑の被害が相次いでいる。気候変動の主な原因である人為的な温室効果ガスの排出削減は急務であり、とくに排出の多いエネルギー分野の一刻も早い脱炭素化が必要とされる。
2018年10月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は「1.5°C特別報告書」をまとめた。レポートは、1.5°C目標達成のためには、2030年までに2010年比45%温室効果ガスを削減し、2050年までに差し引きゼロにする必要があるとした。つまり、今後30年で、一次エネルギーの8割以上を占める化石燃料を大幅に削減していく必要がある。
原発は運転時の温室効果ガスの排出が他の電力源に比べて少ないことから、日本政府は、原発を低炭素エネルギーとして気候変動対策に位置付けている。しかし、発電により解決が不可能な核廃棄物を生み出すこと、被ばく労働を伴うこと、発電に伴うコストが高いことなど、気候変動対策としては不適切である。
気候変動の本質は、南北問題や格差、不公正
FoE Japanは、かねてから、「誤った気候変動対策」、すなわち気候変動対策の名のもとに進められる環境破壊や人権侵害などを引き起こす事業、もしくは本質的に気候変動対策にならない施策に警鐘を鳴らしてきた。原発はその最たるものである。
もともと、気候変動は一部の富裕層や先進国が、大量に温室効果ガスを排出し発展を遂げてきた過程で深刻化している背景がある。今も、貧しい途上国がより気候変動の被害を受け、先進国はいまだに大量生産大量消費、大量廃棄の生活を続けている。つまり、南北問題や格差、不正義の問題こそが気候変動の本質なのである。これを正していこうという考えが気候正義(クライメート・ジャスティス)である。歴史的責任から、先進国には自国内での温室効果ガスの一刻も早い削減と、途上国への支援が求められるが、単に温室効果ガスの削減だけに目を向けると、かえって自然を破壊したり、人権侵害につながってしまう。原発はその代表例だ。さらに、持続可能でない再エネに関しても同様のことが言える。
2015年に採択された気候変動対策に関する国際的な枠組み「パリ協定」でも、気候変動対策の際には、人権、健康についての権利、先住民族、地域社会や、世代間の衡平を尊重・考慮すべきと明記されている。ある対策により温室効果ガスの排出量を減少できたとしても、解決策として直ちに認められるべきではなく、持続可能性と人権などの観点から、総合的に判断する必要があるだろう。
むしろ原発が気候変動対策を妨げる
日本では、原発が気候変動対策として推進されてきたが、過去数十年に渡り、日本の温室効果ガスは減少してこなかった。原発は大規模集中型の電力多消費社会を維持し、再エネや省エネの促進のための対策を妨げてきた。むしろ、原発がほとんど稼働していなかった2014年以降、日本の温室効果ガス排出量は減少し始めている。
図 電源別電力量と発電部門CO2排出量の推移
近年、原発を1基建設するためにかかるコストは少なくとも1兆円レベルに増加している。2018年、米国国立科学アカデミーは気候変動対策における原発の役割についてレポートを発表し、主に経済性の観点から原発の有用性を否定している1。
原発は気候変動に対して脆弱でもある。2018年、猛暑により水温が上昇し、冷却水の温度が十分に低く保てず、フランスやスウェーデンで原発の停止が相次いだ2。また、原発はひとたび事故や災害、なんらかのトラブルで停止すれば、広範囲にわたり電力供給に影響を及ぼすという脆弱性を有している。
まず省エネ、そしてライフスタイル変革を
日本は長年省エネに取り組んできたので、すでに「乾いた雑巾」だと信じている人も多いが、本当にそうだろうか。未だにいたるところに自動販売機やコンビニエンスストアがあり、毎日食品ロスが大量に出ている。商店での過剰な冷暖房も改善の余地がある。また産業部門に対する省エネ目標も甘い。地球環境の限界はずいぶん昔から叫ばれていたのに、ライフスタイルはなかなか変わらない。
気候正義(クライメート・ジャスティス)の観点からも、将来世代のための持続可能性や人権に価値をすえた社会や、責任ある消費行動に、個々人や組織、社会が取り組んでいく必要がある。
- Jidson, Jim, Nuclear Power and Climate Action, 2018
- Quartz “Europes heatwave is forcing nuclear power plants to shut down” https://qz.com/1348969/europes-heatwave-is-forcing-nuclear-power-plants-to-shut-down/ August 6, 2018