ALPS処理・汚染水の海中放出

福島の今とエネルギーの未来

福島第一原発のサイトでは、燃料デブリの冷却水と原子炉建屋およびタービン建屋内に流入した地下水が混ざり合うことで発生した汚染水を多核種除去装置(ALPS)で処理し、タンクに貯蔵している。タンクはすでに960基で、貯蔵されている処理水は116万m3以上となった。

2020年2月、汚染水の取り扱いについて検討を行っていたALPS小委員会が報告書を発表。海洋や大気への放出が現実的な選択肢だとした。

トリチウムの総量は推定856兆ベクレル。また、約8割の水で、トリチウム以外の62の放射線核種の告示濃度比総和1が1を超えている2。東電は海洋放出する場合は二次処理を行い、基準以下にするとしている。

経済産業省は、トリチウムは世界各地の原発で放出されている、健康に影響はほとんどない、という趣旨の説明をしている。トリチウムをめぐっては、放射線のエネルギー量はたいへん低いものの、有機結合型のトリチウムが細胞に取り込まれた時の影響、DNAを構成する水素と置き換わりヘリウムに壊変したときにDNAが破損する影響などが指摘されている。

ALPS処理汚染水に関しては、2020年更田原子力規制委員会委員長が「希釈して海洋放出が現実的な唯一の選択肢」と繰り返し発言。しかし、十分現実的な陸上保管案が提案されているのにもかかわらず、それについてはほとんど検討されていない。

44人中42人が海洋放出に反対

経済産業省は、この「ALPS処理水」の処分に関する説明・公聴会を2018年8月30日、31日に富岡、郡山、東京で開催した。3会場で実施された公聴会では、意見陳述人44人中、42人が明確に海洋放出に反対。とりわけ、福島県漁連の野崎会長など漁業関係者が、いままで少しずつ回復させてきた漁業に壊滅的な影響がでることを訴えた。また、多くの人がトリチウムの危険性を指摘し、タンクで長期陸上保管すべきと述べた。

公聴会終了後、経産省のALPS処理水小委員会の山本委員長は、「代替案に『陸上保管案』も加える」と発言。しかし、実際には、陸上保管案をめぐる議論はほとんどなされなかった。

無視された陸上保管案

陸上保管案については、プラント技術者も多く参加する民間のシンクタンク「原子力市民委員会」の技術部会が、「大型タンク貯留案」、「モルタル固化案」を提案し、経済産業省に提出した3

このうち、大型タンク貯留案は、ドーム型屋根、水封ベント付きの10万m3の大型タンクを建設する案だ。建設場所としては、7・8号機予定地、土捨場、敷地後背地等から、地元の了解を得て選択することを提案。800m×800mの敷地に20基のタンクを建設し、既存タンク敷地も順次大型に置き換えることで、新たに発生する汚染水約48年分の貯留が可能になる。

図 敷地候補の一つ敷地北側の土捨て場

東電は大型タンク貯留に関して、デメリットとして、「敷地利用効率は標準タンクと大差ない」「雨水混入の可能性がある」「破損した場合の漏えい量大」といった点を挙げた。これに対する質疑や議論は行われていない。それにもかかわらず、ALPS小委員会の報告書には、この東電の説明がそのまま使われた。

大型タンクは、石油備蓄などに使われており、多くの実績をもつことは周知の事実だ。また、ドーム型を採用すれば、 雨水混入の心配はない。大型タンクの提案には、防液堤の設置も含まれている。

「モルタル固化案」は、アメリカのサバンナリバー核施設の汚染水処分でも用いられた手法で、汚染水をセメントと砂でモルタル化し、半地下の状態で保管するというもの。 「利点としては、放射性物質の海洋流出リスクを遮断できることです。ただし、セメントや砂を混ぜるため、容積効率は約4分の1となります。それでも800m×800mの敷地があれば、約18年分の汚染水をモルタル化して保管できます」。同案のとりまとめ作業を行った原子力市民委員会の川井康郎氏(元プラント技術者)はこう説明する。

敷地は本当に足りないのか

敷地をめぐる議論も、中途半端なままだ。ALPS小委員会の委員からは、「福島第一原発の敷地の利用状況をみると、現在あるタンク容量と同程度のタンクを土捨場となっている敷地の北側に設置できるのではないか」「敷地が足りないのであれば、福島第一原発の敷地を拡張すればよいのではないか」などといった意見がだされた。敷地の北側の土捨場にもし大型タンクを設置することができれば、今後、約48年分の水をためることができると試算されている。土捨場にためられている土について、東電は「数Bq/kg〜数千Bq/kg」と説明しており4、敷地から動かせないレベルの土ではない。

敷地拡大の可能性については、事務局は地元への理解を得るのが難しいとしている5。もちろん、地元への説明・理解は不可欠であるが、その努力をまったくせずに、「敷地拡大は困難」という結論を出すことは時期尚早だろう。 地元の漁業者は「放出ありき」の議論に、反発を強めている。福島県漁連の野崎会長は繰り返し反対の意思表示をしている。また、茨城沿海地区漁業協同組合連合会も2020年2月、汚染水を海に放出しないように求める要請を行った。茨城県の大井川知事は「白紙の段階で検討し直してほしい」と述べている。


  1. 告示比総和は各核種濃度の告示濃度限度に対する割合を足し合わせたもの。排出基準として1未満でなければならない
  2. 2019年11月18日東電発表資料
  3. 原子力市民委員会「ALPS 処理水取扱いへの見解」2019年10月3日
  4. 第15回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会における東電発言
  5.  第16回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 資料4
タイトルとURLをコピーしました