除染土を全国の公共事業で利用?
環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」は、2016年初頭、福島県内の除染で発生した汚染土1,400万m3のうち、8,000Bq1/kg以下のものを全国の公共事業や農地造成に利用できる方針を策定した。現在、「手引き」を作成中だ。
除染廃棄物は、福島第一原発周囲に建設する中間貯蔵施設で最長30年間保管し、その後、県外に運んで最終処分する計画となっている。この方針は、最終処分量を減らすために策定された。
図 除染によって発生した汚染土の再利用
従来、原子炉等規制法に基づく規則においては、セシウム換算で100Bq/kg以上のものは、「放射性廃棄物」として敷地内で管理してきた。今回の環境省方針は、この80倍のレベルのものを公共事業や農地に使うことを容認するものだ。
環境省が作成中の「手引き」では、用途の例として、道路・防潮堤・海岸防災林・土地造成・水面埋め立て・農地などがあげられている。盛土材、充填材などとして使うことが想定されている。用途に応じて放射能濃度の限度、覆土の厚さなどが定められている。
しかし、遮水構造になっている管理型の処分場であっても、周辺に汚染が浸出し、問題になることが多い。公共事業で使う場合は、遮水構造にするわけではなく、ましてや、河川の氾濫、地震や津波などの災害時には、崩落や流出などが生じるおそれがある。
汚染土を道路の盛り土として使った場合、セシウム134・137が100Bq/kgまで減衰するのに170年かかる。一方、盛り土の耐用年数は70年とされており、「その後はどうするのか?」という問いに環境省は答えていない。
各地で市民が反対
環境省は、福島県二本松市で汚染土を農道の路床材として使う実証事業を行う予定であったが、二本松の市民たちは、(1)地元地区のごく一部しか参加していない中で説明会が開催され、「地元了解」ということにされてしまった、(2)仮置き場から運びだすという約束だったのに、農道で使えば最終処分になりかねない、(3)放射性物質の拡散が懸念されるなどをあげ、これに反対。
計画では、二本松市原セ才木地区で約200mの農道を掘削し、近くの仮置き場に積まれた汚染土500袋を、袋から出して路床材として埋め、 50cm程度の覆土を行うこととなっていた。2018年2月には、地元の市民団体が環境省に対して白紙撤回を求める要請書を提出。住民たちはFoE Japanが東京で開催した環境省交渉にも参加。こうした反対の声に押され、6月になって、環境省が実質撤回の意向を示した。
南相馬市では、南相馬市小高区の常磐自動車道の拡幅工事で再利用する計画が進められようとしている。2019年2月1日、地元住民により「反対する会」が結成された。地元の小高区羽倉行政区の区長は「汚染土は、当初3〜5年で仮置き場から中間貯蔵施設に運ぶという約束だったが、8年近くたっても守られていない。実証というが、一度使ったら永久に置かれる懸念がある」として反対している。
飯舘村長泥地区で進む実証事業
飯舘村長泥地区では農地造成に汚染土を使う実証事業が進行中だ。村内の汚染土3万袋を長泥行政地区に設置されたストックヤードに運び込み、必要量を再資源化施設において破袋、異物除去、放射能濃度分別を行い、5,000Bq/kg以下のものを使って、比曽川沿いの農地の嵩上げ材として使うことになっている。その上に50cmの覆土を行った上で、園芸作物、資源作物を栽培する。実証事業としての農地造成は0.1haだが、このあと、より拡大したエリア(34ha)内で農地造成を行う計画。これらは、飯舘村「特定復興拠点区域復興再生計画」の一部として実施される。住民にとっては、住居まわりの「除染」を含む同計画を拒否できなかったという事情がある。
抜け穴だらけの「省令」
環境省は、2020年1月になって、汚染土の再利用のため、いわゆる除染特措法の施行規則を改正する「省令案」の概要をパブリック・コメントにかけた。
汚染土の再利用自体も問題だが、この省令案はさらに問題だ。用途制限、放射能濃度限度、被覆、管理期限、情報公開など具体的な制限や責任が何一つ盛り込まれていないからだ。このままでは、高濃度の放射性物質を含む汚染土が、住民の知らない間に再利用され、ずさんな管理により汚染土が拡散してもその責任をだれも負わないということになりかねない。
汚染土をどう処分すべきかについては徹底的な国民的議論が必要である。環境省は全国で説明会や公聴会を開催した上で方針を決定すべきだろう。
- 1秒間に1回放射線を出す能力が1Bq(ベクレル)。同じ放射性物質なら、その物質の量と放射能は比例するので、ベクレルで表される数値の大きさは、放射性物質の量を表していると考えることができる。